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大量生産大量消費に替わる流通構造を。 居酒屋「くろきん」が漁村に投資する必然性
東京都三重県

大量生産大量消費に替わる流通構造を。 居酒屋「くろきん」が漁村に投資する必然性
株式会社ゲイト 五月女圭一さん

都内9店舗で居酒屋を経営する株式会社ゲイトは2018年3月、定置網漁の操業を開始した。限界集落になっていた漁村での干物工場取得を皮切りに、漁船も購入して漁業権も取得。水揚げした鮮魚や干物は消費地である東京へ社用車で運んでいる。魚は豊洲に行けば手に入る。店まで配達してくれる卸売業者もいる。なぜ、そこまでするのか?代表取締役の五月女圭一さんにお話をうかがった。

記事のポイント

  • 漁業への参入は、食材の仕入れコスト削減ではなく、漁業の復興・存続が目的
  • 地元の市場で売れる魚は地元で還流。売れない魚を東京へ
  • 出口を持つ経済的に持続可能な漁業を構築する

食産業を取り巻く現状の無理

五月女さんは2010年10月、フランチャイズで1店舗目の居酒屋をオープンした。その後、2年で10店舗に増やしたタイミングで独立。独立を機に問屋と取引をするようになってから、食材の流通のあり方に疑問を感じるようになった。

「初めの2年ぐらい、問屋さんと取引してもらえるように努力しました。10店舗程度だと問屋さんにとっては利ざやがとれないので『店を増やします』と約束して付き合い始めたんです。ところが、20店舗あまりになっても、納入してもらえる食材の品質が上がらないばかりか値段は上がる一方。店を増やす意味あるんだろうか、と立ち止まって考え始めました。」

五月女圭一さん

理由を突き止めるべく卸売業者と対話をしたところ、卸売業者も厳しい状況にあることがわかった。年商700億円、200万アイテムを取り扱い、1日500万件の発注を受ける大手でも収益構造に余裕がない。取り扱っている食材の仕様書を出すことができない会社もある。国内では1次産業が衰退し、世界では食料争奪戦が始まっている中で、求められるものに対応しようとして追いつかなくなっていた。発注する飲食店と対応しようとする卸売業者が共に生み出している厳しい実情がそこにあった。

「仕様書が出てこない会社との取引をやめていって、安全性が確認できないような食材を使わないようにすることに2年以上かかりました。構造的に無理がきているんだと理解しました。」

大量生産大量消費の流通構造の中では、安定供給が最優先で食材の出どころは二の次。また、出口となる3次産業が食中毒などの事故こそが最大のリスクととらえているため、食品添加物も多用される。流通小売業も外食産業も、事故がないように、オペレーションを効率的に、という方向に努力をしていけばいくほど、工業製品のような同じ食品が店頭やメニューに並ぶことになる。

「魚にしても、シメサバとかホッケとか、コンビニにおいてあるものと、飲食店で出されるメニューが一緒になってきている。そうしたら当然、コンビニに負けますよ。お客さんは、工業製品が食べたくて外食するわけではない。企業として取り組むのであれば、これから先未来にわたってお客さんが喜んでくれる商品やサービスをつくることが価値だから、この構造から抜け出さないといけないと思ったんです」

結論、それから数年を経た今も既存の流通構造から抜け出す奮闘は続いている。9店舗の運営に必要な仕入れは約500アイテムにのぼる。それらをすべて、卸売業者に頼らずに用意できるとは思っていないと五月女さんは話す。

「そもそも食べものをつくるのは大変なこと。1次産業の人たちになり替わるなんて簡単にできることじゃない。頭ではみんな、それがわかっているのに、大量生産大量消費の流通構造の中では1次産業が下請けという意識が蔓延している。まず抜け出さなきゃいけないのは、その部分だと思いました。」

五月女さんは、手がかりを求めて山梨県に畑と家を借りた。畑を入り口に1次産業者と会話をする中で、お互いがお互いのことをわかっていない、ビジネスにおいて必要不可欠な相互理解が形成されていないと気がついた。そこから、社員と1次産業者の固定観念を溶かす地道な取り組みが始まった。

「キャベツに虫は当然」の意識改革

「まず、社員に反対されました。社長が事業と関係ないことして遊んでる、と。でも、会社は社会の公器だし、価値観を提示して広げていかないと事業としても行き詰まるんです。だから、『お金はかけない、かけるのは時間と僕の労力だけなので許してもらえませんかね』とお願いして始めました。」

五月女さんは、会社のスタッフやくろきんのお客さん、取引先を巻き込んで一緒に畑を耕した。ビールサーバーを持ちこんでイベントをしたこともある。子ども向けに収穫体験をしたことも。地道な取り組みで、会社の内外を問わず理解者を増やしていった。

また、当初は山梨の1次産業者側にも歓迎の空気はなかったという。

「通い始めたころは、『あんたたち、どうせモノだけほしいんだろ』って毎回言われていました。こちらは何も言っていないのに。それだけ、ずっと3次産業からそういう『モノだけ出せ』っていう対応をされてきて、アレルギーになっていることがわかりました。そこから始まって、1年ぐらい経って1回じゃがいもが収穫できた頃ぐらいに、山梨側の対応も変わり始めました。」

東京の価値観でキャベツに虫がついていると怒っていたスタッフも、山梨の畑に虫がいるのを見たあとは二度と文句を言わなくなった。

買っているだけでは変わらないから投資する

五月女さんは、1次産業者との対話を通して「3次産業の担い手として1次産業からモノを買っているだけでは変わらない」と考えるようになった。対等な取引先として相互理解を深めるにとどまっていては、1次産業の担い手減少を食い止められない。だから、自ら率先して「出口を持っている1次産業の担い手」になろう。そう考えた先に、三重県尾鷲市須賀利町での漁業参入があった。

「三重県で漁業をすることになったのはたまたま。山梨の畑の仲間の縁です。」

漁業権の取得には苦労したが、先立って干物工場や漁船を購入するなどして本気を見せたことで、須賀利漁協で漁業権が認められた。地元のフリーランスの若手漁師を雇って操業。獲った魚は尾鷲の市場に卸す。買い手がつかない魚種や小さな魚、市場で購入したB級品を干物にし、自社物流で東京に運んでいる。

店を増やすだけが成長じゃない

漁業という新規事業の収益性について、五月女さんは次のように話す。

「漁船や網は中古で調達し、かかったイニシャルコストは約5000万円。原資は年間1億円の仕入れ費です。しかもこれは、毎年10%ずつ値上がりしているし、これからもしていくでしょう。それなのに、卸売会社に注文すれば無限にモノが届くという前提で店舗に投資して拡大していくのは間違い。だから、僕は利益の再投資先を新店舗ではなく食べ物のある地域に振り向けます。それに、コストが増える分の1000万円の支払い先をローカルにスイッチしたら、消費が投資になるじゃないですか。」

漁業への参入は、3次産業者として食材を安く仕入れるためではなく、「出口を持つ漁業」を構築するための投資。それは、そもそもの事業目的が、問題意識の中核にある1次産業や漁村・農村の衰退を食い止めることだからだ。だからこそ、市場に卸せる魚は東京に持ち去らず、地元の経済に還流させることを意識的に実践している。

魚と社員をピストン輸送

また、問題意識や事業目的の浸透を図るため、三重から魚を運んできた社用車で東京の社員を三重に運び、日常的に実地研修の場を持つ。

三重から東京へ向かう魚便

「車本体も入れて、1週間に1度往復させると年間500万円。物流費で500万円というと高いという人もいるかもしれないけど、研修費だと思ったら高くないです。新しいことをするときに、費目の境目をなくすことはすごく重要。価値観をベースに考えると全部よくなります。物流費と研修費を兼ねたら、最初は須賀利で獲ってきた魚だよ、と言っても何のことだかわからなかった調理スタッフが変わりました。現地に行って綱から上がったばかりの見たこともない魚種を自分の目で見たり、自分でさばいたりしてるうちに、意味がわかってくるんです。」

結果的に、メニュー開発力や接客コミュニケーション力が蓄積され、競合との差別化につながっている。

いずれは仕入れコストをゼロに

お話を伺っていると、飲食店にとって1次産業を担う地域を支えることは、当然必要な企業努力だと思えてくる。しかし、そう考える飲食店経営者はまだまだ少ない。五月女さんは「だからこそやりがいを感じる」と話すイノベーターだ。

「仕入れ価格の高騰にはみんな困っている。既存の1次産業も収益構造が悪化して担い手が減っていて、須賀利のような漁村は限界集落化している。このままでは日本の野菜や日本の魚が食べられなくなる。どちらも放っておくわけにはいかない課題です。その課題に対して、どうしたら飲食業も一次産業も利益をつくり、持続可能になるのか。そのモデルをつくらなければならないという思いで模索しています。だからまず、出口と産地を直接つなぐ。それは既存の便利でシステム化された流通構造から外れることを意味します。でも、無理矢理にでもつなげればいい。むしろ、うちの場合で年間1億円、問屋さんに払っているお金の塊があって、それが来年は1億1000万円、再来年は1億2100万円って膨れ上がっていくんだから、外れることが最優先課題じゃないですか。だから無理矢理にでも。物流だって、自分で運転して運べばいい。僕はもう、店のメニューを全部魚にしたいと本気で思ってますよ。」

くろきんの看板メニュー「生産地ファーストコース」の一部

「みんな困っているから丁度いい」と五月女さんは言う。

「僕らはその困っている飲食業界で、『県外企業が漁協准組合員になって共同漁業権内の小型定置綱やります』って、日本で初めてのモデルになった。それを見て、うちもやりたいっていうところが出てきています。本当にするかどうかは未知数です。でも、すでに波及効果が出ているといえるんじゃないでしょうか。」

地方創生の文脈では、地方にある1次産業から2次・3次産業へと進出することで収益性を高め雇用を生み出そうとする、”1次産業からの6次産業化”が地域の生き残り策として取り沙汰されることが多い。しかし、五月女さんは都市部の3次産業にとってこそ、地方にある1次産業がなくならないこと、現場と直につながることが生き残りに不可欠だと考え、リスクをとって1次産業”全体”に投資をしている。これは、「安価な人件費」や「食材」、「優遇税制」といった”部分”にメリットを感じて地方に進出するのとは根本的に異なるあり方だ。こうした志や見方、動きが広がり新しい潮流となれば、地方創生のこれまでにない新たな糸口になるだろう。

●株式会社ゲイト 概要

  • 所 在 地 : 〒130-0024 東京都墨田区菊川 1-13-8 五月女ビル菊川 6F
  • 電 話 : 03-6666-0075
  • 代表取締役 : 五月女圭一
  • 株式会社ゲイト コーポレートサイト

取材・文:浅倉彩

このメディアは「地方創生」を「業界」として定着させ、そこで活躍する人を可視化し応援する為に生まれました。

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