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農業は生産を超える。農政の新コンセプト 「EAT LOCAL KOBE」が起こした変化
兵庫県

農業は生産を超える。農政の新コンセプト 「EAT LOCAL KOBE」が起こした変化
兵庫県神戸市農政部農水産課

2015年、兵庫県神戸市は市役所主導の地産地消プラットフォーム「EAT LOCAL KOBE」をスタートさせた。それから3年、キーイベントである毎週末のファーマーズマーケットは常設のファームスタンドに発展し、上位コンセプト「食都神戸」も誕生。農政部署への問い合わせは急増している。港町神戸で農業に注目が集まるまでのプロセスを、立ち上げと運営に携わった山田隆大さん (現在は農政部計画課)に伺った。

記事のポイント

  • 実力に対して、知られていなさすぎた神戸の農業
  • 農産物単体のブランド化という“いつもの発想”からの脱却
  • 展開の陰に地域密着のブランディング会社
  • プラットフォームがつくる「つながり」がまちの資産になる
  • 農業の可能性を最大化することで、地域全体をアップデートする

始まりは担当者レベルの不満

神戸市は近畿農政局管内(京都・滋賀・大阪・兵庫・奈良・和歌山)の市町村で第3位の農業生産額を誇る。(1位は兵庫県南あわじ市、2位は和歌山県紀ノ川市)ところが、中心市街地の三宮などで「神戸産のいちご」をPRしても、「え、市内でつくってるの?」という反応がほとんどで、街と里(農村)が分断している状況だった。

この課題に手を打とうと「神戸の農水産物のブランド化」に取り組み始めた山田さんは、あることに気づいたという。

「話している相手がいつも、JAや地元の農業者、県の行政職の人たちでした。自分を含め、課題となっている現状を構成している人たちは答えを持っていないから悩んでいるのではないか、答えを持っていない人だけでしゃべっても限界があるのではないかと思ったんです。また、国策の中だけで動いても、目の前にいる、すぐ近くにいる街の人たちが求めるものにならないのではないかとも。」

山田隆大さん

そこで山田さんは、農村に関わる人びとを広く俯瞰し、つくり手・つなぎ手・つかい手にわけて現場の声を集めた。

「つくり手は、生産者で尖った動きをしている人。つなぎ手は、市場や系統流通の人だけでなく、特徴的な売り方をしているスーパーや有機野菜に特化した八百屋さん。つかい手は、レストランのシェフやスイーツ店のパティシエ。アンケートではなく、実際に会いに行って話を聞きました。」

集めた声をもとに、より客観的な目線を持つブランディングのプロと話をする中で、農産物単体ではなく、まち全体を「食」という切り口で差別化する戦略が浮かび上がった。

「それまでは、農業関係者だけで『農業』『農業』と言っていた。そうすると目の前の農産物にだけ目がいって、ブランディングの発想がどうしても『農産物に名前をつけてシールを貼ってスーパーに並べる』というよくあるパターンにはまりがちでした。そこに、つなぎ手やつかい手の目線を入れて吟味し、『農業』ではなく『食』という切り口にすることでわかってくれる人が増えるのではないかと、視界が開けました。」

農業のPRだからといって、農業大国である北海道や長野を真似するのは違う。夜景や港、国際都市という、神戸がすでに持っているアイデンティティとかけ合わせてこそ、神戸の人々に浸透する。こうした見方から、「生産者やシェフや食に意識の高い消費者が『食』について考えるプラットフォーム」というコンセプトが生まれた。

「行政としては、第二の神戸ビーフのようなブランドができたらそりゃ嬉しいです。でも、それは行政が自らつくることではない。それよりも、まち全体が『神戸の食』を大事にするような空気ができたら、ある人は第二の神戸ビーフをつくろうとするかもしれない。そうした構えが、本来あるべき行政の仕事のあり方だと思いました」

行政が黒子に徹してつくる、農業者を始め食に関わる人と農産物を内外からよく見えるようにするひな壇。それが「EAT LOCAL KOBE」だった。

神戸の農業の存在感が変わった

成果は冒頭に記したとおりだが、農産物の売り上げ増を狙った直接的な販促物ではない「コンセプト」や「スローガン」や「プラットフォーム」は、公共事業の対象になりえたのだろうか?この点について、山田さんは次のように振り返る。

「はじめのころは、予算はなく、実働から入りました。先にやっちゃってあとから予算要求するパターンばかりでしたね(笑)それも、どこかを切り詰めて100万円とか200万円を捻出する感じ。それでも地元のブランディング会社やたくさんの方々が共鳴して動いてくれた。実感を持って自分ごとにしてくれたことが、プロジェクトを前進させた。それに、生産者やシェフの中にも、積極的に引っ張ってくれる人がいた。表に名前が出てこないたくさんの人たちが、何をするにもいっぱい動いてくれました。」

予算ありきではなく、ビジョンに共鳴した仲間と実働ありき。結果、1年で9回のファーマーズマーケットが開催され、神戸の農業を知り、意識する人が増えた。

「EAT LOCAL KOBE FARMERS MARKET」

「香港や台湾、中国といった海外からも、農産物を出してくれないかと問い合わせがくるようになりました。また市役所内でも、農業は農政だけでやっているという感じだったのが、都市計画や港湾の部署などから『マルシェをやってくれないか』とか『神戸の野菜はないか』と連絡が来るようになりました。すごい勢いで神戸の農業の存在感が変わりました。」

広告費をかけなくても、自然に農産物の出番が増え、露出が増えた。魅力的なひな壇をつくり、そこに農産物を上げたことで、外からよく見えるようになり、色々な角度から引き合いがくるようになったかっこうだ。

つながりを狙った海外展開

地元での認知度の高まりに手応えを感じた山田さんたちは、同時に海外にも目を向けた。海外向けに食を切り口に神戸をブランディングするため、「EAT LOCAL KOBE」を包含する「食都神戸」という上位コンセプトを立てたのだ。毎週のファーマーズマーケットで足元を固めた上で、年に1度、海外や全国からゲストを招致する「食都神戸DAY」を開催。地球規模の食と農の運動体スローフード・インターナショナルとも連携プログラムを開始した。

2年に1度行われるスローフードの祭典「TerraMadre Salone del Gusto」に出展。約140ヶ国から約5000人が集まるイベントで神戸の食をプレゼンテーションした。

山田さんが価値を置くのは、国境を超えた人と人のつながりだ。

「『EAT LOCAL KOBE』を通して、神戸の食と農の界隈に、“顔パス”の関係が山ほどできました。組織や立場を超越して、SNSで直結して、わざわざ会議をしなくてもちょっと話しかけて質問したり会話ができる。つながりが、思考や行動をなめらかにしたり、アップデートしてくれることを実感しているので、今度はそういったマンツーマンのつながりを海外にも広げたいと思ったんです。」

日本じゅう、世界じゅうで、食と農の分野で頑張っているひとがいる。彼らと、直接知り合っていて話ができるつながりを持つ人材を神戸に増やすことが、10年、20年にわたって価値をうむ。経済観光局の一員としては、経済的なものさしでの実績を求められるという山田さんだが、「経済よりも大切」と人づくり、つながりづくりに信念を持って取り組んでいる。

「神戸の代表的な食のブランドにモロゾフやゴンチャロフがあります。150年前に神戸港が開港したときも、モロゾフさんやゴンチャロフさんだって、人どうしで交流しながらチョコレートや洋菓子を広めたはず。神戸の食やまちは、人と人がつながってプロジェクトが生まれてきた歴史の上にできあがっているわけですから、その歴史をつなげていきたい。」

ずっと過渡期。終わりはない

ローカルかつグローバルなつながりを持った人材を増やそうとする山田さんの目線の先にいるのは、若者と生産者だ。2018年3月にオープンしたファームスタンドには、単なる農産物の売り場ではなく、大学生や若者が生産者や料理人と関わりを持つという役割を持たせた。また、2017年に日本で初めて開催した「食科学大学(University of science gastronomy UNISG=スローフードインターナショナルが設立した世界唯一の食の大学)の代表的な講師陣による日本初の集中講座でも参加してほしかったのは若者や生産者。2年目、3年目も若者を中心に人材を集めて継続中だ。

ファームスタンドは、毎日ローカルフードを手に入れられる「EAT LOCAL KOBE FARMERS MARKET」のリアルショップ

「一連の取り組みの恩恵が、まだまだ届ききっていないのが生産者です。僕たちの努力不足なんですが、ついてきてくれる生産者がまだまだ少なくて。『自分らは生産だけしかできへんのに』という人も当然いるんですけど、ただ過去の流れでそう思い込んでるだけの人、本心ではもっと色んなことに関わりたい人もいるんですよね。『人と話すの嫌やわ』みたいな方にも、固く考える話ではなくて、楽しいもんなんですよという見せ方の工夫をしないといけないのかな。とにかく、生産者さんに情報を与えてこなかった状況を打開したいと思っています。」

2018年に開港150年を迎えた神戸の地で、農業の存在感を高めながら、食の都としての神戸を確立する。農業の可能性を最大化することで、地域全体をアップデートする取り組みは、今後も続いていく。

●関連サイト

取材・文:浅倉彩

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