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市民が主役で行政は黒子。漁業と観光と福祉の連携を通じたまちづくりとは?
三重県

市民が主役で行政は黒子。漁業と観光と福祉の連携を通じたまちづくりとは?
三重県鳥羽市 企画財政課 岩井太さん・観光課 高浪七重さん

鳥羽市の自然環境や観光をアップデートする取組みに関心を示す中村市長ですが、その想いをかたちにするには、右腕となる行政職員、そして主体的に動く市民の存在が欠かせません。鳥羽のことを熟知しながら、地域に飛び出して市民の声を拾い上げ、政策に反映していく。方針を具体的な仕事に落とし込むまでの丁寧な取組みと、いち市民としての地域事業への思いを、キーパーソンとなる行政職員の方々に伺いました。

三重県鳥羽市 企画財政課 岩井太さん・観光課 高浪七重さん

  • 統率(地域密着)72
    全国でも珍しい、漁業と観光が連携した取組みを進め、観光事業者の人手不足と高齢者の短時間雇用を結びつける「とばびと活躍プロジェクト」を構想するなど、地域課題解決を進める。
  • 武勇(行動突破力)64
    現時点では市長の行動力に引っ張られているところであるが、徐々に職員自身にも地域に飛び出し、様々な取組みを試行するといったメンタリティが芽生えつつある。
  • 知略(計画実行力)85
    鳥羽の持つ地域資源に気づき始め、それらをどのように活用していくかについて地域住民とともに動いている。行政主導ではなく、あくまで民間の活力を伸ばす方針で黒子に徹している。
  • 政治(広報戦略)88
    海女をキラーコンテンツにして様々な先進的取組みやコンセプトを明確にすることを試みている。日本国内のみならず海外インバウンドといったところも視野に入れている。

記事のポイント

  • 健康福祉課と観光課が連携。人手不足という課題を活躍の場づくりに生かす
  • 他の自治体が手がけていないからこそチャレンジしたい
  • 地域資源や課題が多い鳥羽市で政策観光の仕組みとコンテンツづくりに力を入れる

庁舎を飛び出し、働く。市長・職員の働き方改革への意欲

ー鳥羽市は、海女を筆頭に、複業が当たり前という感覚が馴染んでいるようです。働き方改革という意味では、様々な可能性がある地域だと思いますが、実際、行政職員のみなさんはどうですか?副業したいとか、観光や漁業に携わりたいといった想いはありますか?

岩井: もし公務員をしながら副業できる制度が整備されたら、私はやりたいですね。国も公務員の副業推進という方向に動いてますし。鳥羽の牡蠣養殖には土日になるとお客さんがたくさん来るんです。その辺を支援したいですね。私が牡蠣小屋をやるというよりは、地域の人にやってもらってそこに高齢者や若い人たちが働けるような場づくりをしていければと考えています。

鳥羽市役所企画財政課 副参事の岩井太(ふとし)氏

ーたとえば地域住民との調整が必要なボランティアツーリズムのような取組み(鳥羽市編 第一弾「全国初「海女のまち条例」を制定。海女の“当たり前”を地域資源と定義し活用する」参照)は、行政職員という信頼ある立場だからこそ上手くコーディネートできる部分はあると思います。なので役場では財政や福祉の仕事をしているけど、休日は観光コーディネートをやります、というかたちもありそうですね。

岩井: 町内会なり消防団なりにはみんな入ってますので、有償ボランティアとしての活動は、実はすでに存在しています。そこからの延長線で地域活動を広げていければ良いですね。

ー市長が秘書である愛犬とガイドになって、シーカヤックツアーを提供するとか。

市長: ニセコ町に行った時に、逢坂前町長が視察ガイドをしてくれたのがとても心に残っています。お金もらうもらわないは別としても、町長がバスガイドをやるのはいいなぁと思って、ああいうふうにやってみたいですね。

岩井: 地域住民に対しては、出前トークのような形で市長が出向いて話すケースはすでにあります。観光客向けにはまだ実施していないのですが、市長をはじめ職員がガイドツアーをするのは、最初の取っ掛かりとしていいかもしれませんね。

市が牽引する新雇用プラン「とばびと活躍プロジェクト」

ー地域住民の間でも、副業・複業といった働き方は始まっているのでしょうか?

高浪: 働くということに関して言いますと、役所の全部署横断的に「とばびと活躍プロジェクト」という取組みを始めています。鳥羽市民が活躍するプロジェクトというコンセプトで、鳥羽の人、市民がイキイキと活躍できる町づくりを目指しています。

鳥羽市役所観光課 課長補佐の高浪七重(ななえ)氏

私は観光課ですので観光の話をしますと、とばびと活躍プロジェクトで最初の雇用プランを作るのですが、その中で、福祉と観光が連携した市民の就労促進事業の取り組みをスタートさせました。市内にある約160軒のホテル・旅館がどこも人出不足ということで、そこに市民が何らかの形で関わって働くことで生きがいを見つけてもらうためのマッチングを進めています。

宿泊業は朝早くから夜遅くまでの長時間労働で、昼間が暇で休憩があるという特殊な労働環境のため、従業員定着率が非常に低いのが課題です。そこで業務を分解して、朝の2時間だけとか夜の数時間だけどか、週1回庭の剪定をするというように仕事を小分けにしています。その小さな仕事を、フルタイムは無理だけれども働きたい、ちょっとした趣味を仕事に活かしたいといった市民の方々のニーズとマッチングさせようと考えています。

現在は調査を始めたところで、ホテル、旅館にヒアリングに行ってどんな仕事あるかとか、どうやれば1日の仕事を分解できるかとか、ニーズを拾ってるところです。また、広報誌にこの取り組みを掲載して周知を始めています。

市長: 今までは業務を分解せずにフルタイムで大変だ、拘束時間が長いといった話ばかりだったんです。ところが分解してみたらパートタイムでの仕事を出せるんじゃないかとか、ちょっと働くくらいならやっても良いという市民のニーズがあるんじゃないかということで始めてみました。

ー需要と供給のマッチングは大変そうな印象もありますが

高浪: もしかしたら市民でやる人が少ないんじゃないかという心配もありますが、ちょっと得意なこととか好きなことを活かせるんだと捉えてもらえれば良いと思います。お掃除とか庭いじりとか、お客様と接するのが苦手ならば裏方の仕事もありますし。単に労働力としての価値だけではないんですよね。

実際にホテルでは、自閉症の方で働いている人もいて、黙々と皿洗いをやれるんですね。そうするとホテルにとっては非常にありがたくて、ご本人は他の従業員の方とコミュニケーションが取れるようになっています。今まで家庭に閉じ籠っていた人が外に出て、社会に関わりながら活躍できる。そういうまちづくりがしたいなと考えて、少しずつですけどやり始めたところです。

暇なことが嫌いな海女のまち

ー他の地域で聞いた話ですが、障がいを持っている方に敢えて観光ガイドを任せているケースがあります。そうするとお客さんがものすごく優しくなるんだそうです。いろいろ手伝ってくれたり、無茶な要求をしなくなる傾向があるらしくて。人と仕事の今までになかったマッチングには、すごく可能性があると思います。告知は広報誌中心にやっているのでしょうか。Webサイトもありますか?

高浪: Webには載せてないですね。6月の広報誌に初めて取組みの趣旨やイラストを載せて、ホテルから問い合わせがありました。また高齢者の方から問い合わせがあって、仕事を辞めたばかりで興味があるというような声も聞かれました。

結プロジェクトにも繋がる話ですね。市外から人を呼ぶ前に、市内で余剰しているリソースを見つけ出してまずそこから。すごく良いですね。やっぱり海女さんに代表されるように、一人何役もこなす精神文化があるからでしょうか。

鳥羽市 中村欣一郎市長

市長: 暇なのが嫌な人たちなんですよ。ホントに(笑)。でも考えてみたら様々な仕事を少しずつ持って稼ぎがあるというのは、一つの仕事だけで効率よく働くよりも人生豊かだと私は思います。ちょっとした就労でも、旅館から来てください、ホテルからも、みたいな形で地域から頼りにされている感覚っていうのは、生きがいという意味でも大事なことだと思います。健康寿命という観点でも、お手伝いしてもらって元気に長生きしてもらえたら行政としてもありがたいです。

ーそういうところに大学を絡めて、就業と健康寿命の関係を研究していくと面白いですね。

市長: 「地域共生社会」が謳われています。意味を現実に落とし込んで捉えると、誰もが一方的に支えられる側ではなくて支える側でもある、持ちつ持たれつの状態のことだと思います。鳥羽にはすでに、多種多様な支え合いとか貢献しあえる姿があると思うので、その価値を捉え直して言語化・数値化できれば、今以上に、市民のみなさんの誇りや生きがいをアップデートできそうな気がしています。

ー「海女さんは60歳でも若手」というコンセプトは、ものすごく応用しやすい地域資源だと思います。「地域社会では60歳は若手だよ」と表現すれば、どんどん役割が発掘できる。みんなが理解しやすいですね。

他の自治体が手掛けていないことをしたい

ー昨今の地方創生の文脈では、様々な自治体がアイディアや取組みを打ち出していますが、鳥羽市ならではの取組みは今後も増えていくのでしょうか。

高浪: 誰もやったことがないことを一番はじめにやるのは楽しいじゃないですか。漁業と観光の連携とか、他でやってないことに手を出す。漁業と観光の連携をやるときはいろんなことを言われましたけどね。そんなことできるわけがないとずっと言われ続けましたけど、とりあえず公表しちゃったのでやるしかないと。

市長: 海島遊民くらぶもみんなが思ってたことを、誰もやらないんだったら私たちやろうっとみたいな感じで形にしていますからね。成功したら美味しいとこ取りされるんですけど(笑)。それでも、不動の地位を築いてますからね。

ー取り組みを継続していくためには、みんなの目に見えるかたちで地域にお金を落としてもらえる仕組みをつくる必要がありますね。

市長: 私としては、次なる一手として、政策観光みたいなことができないかなと思っています。漁業と観光の連携なり、教育と観光が連携した島っ子ガイドや、今話に出たとばびと活躍プロジェクトなり、鳥羽市のこれまでの取組を有償で案内する。鳥羽ほど地域資源や課題が多いところはなかなかないというのが私の持論です。だからこそ、鳥羽が悩んで苦労していることとか、工夫してきたことなどを見たい人もいると思うんです。県議会議員をしていた立場から申しますと、政務活動費を使って見に行きたい、というニーズがすごくあると見ています。

ボランティアツーリズムもそうなのですが、以前のような美味しいものや綺麗なものを楽しむ観光じゃなくて、社会貢献につながる観光だったり、環境・福祉・教育など何でも、「鳥羽に行ったら勉強になった」というような観光コンテンツをつくっていきたいですね。それが、市民が主役になる町づくりだ思っています。


鳥羽市役所は山の上にあり、もともとは水軍で有名な九鬼氏が治める城のあった地に立っています。伊勢志摩という名称の中には鳥羽は入っていませんが、「鳥羽が飛ばされた」と自虐ネタで笑い飛ばすなど、ユニークかつ中長期的な視野で市政に取り組んでいる印象を受けました。

地勢的にもリアス式海岸が入り組んで、それぞれの浦や集落によって独立した文化が存在しています。それぞれのアイデンティティを尊重しつつ、海では多様なところと繋がっている海洋民族文化こそがとても面白く、オープンマインドとオリジナリティを重視する原点はそこにあるのだと感じました。

牡蠣、伊勢エビ、鮑、海藻など、様々な海産物が楽しめる鳥羽の魅力と、個性ある市民活動を後押しする行政のマネジメントが組み合わされれば、観光地として一味違う魅力を発揮できるのではないでしょうか。

「今、注目したい市町村のクニづくり」鳥羽市編第一弾は中村劤一郎市長インタビュー「全国初『海女のまち条例』を制定。海女の”当たり前”を地域資源と定義し活用する」も合わせてお読みください。

取材・文:東大史

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