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ユーザーの求めるイノベーションとは何か。大手地銀の出した一つの答えと挑戦。
福岡県

ユーザーの求めるイノベーションとは何か。大手地銀の出した一つの答えと挑戦
iBankマーケティング株式会社

記事のポイント

  • 地域銀行の危機感と使命感から生まれた顧客起点のサービス
  • 地銀の中で起きた異色の社内起業、その旗揚げ人の想い
  • フィンテックとマーケティングでの地域事業者、地域経済の活性化を見据える仕掛け

厳しい経営環境のなかで新しい技術を導入したり、新しい分野に進出することは簡単なことではない。だが、生き残りのためにユーザーの声から学び、金融と非金融をつなぐ新たなサービスを提供した地銀がある。2016年にスマホアプリ『Wallet+』をはじめとするプラットフォーム『iBank』を始めた福岡銀行だ。その仕掛人はサービスを運営するiBankマーケティング社の代表を務める永吉健一(ながよし けんいち)さん。 今回は永吉さんに、銀行のフィンテック業界参入の急先鋒となったサービスのこれまでとこれからを伺った。

永吉 健一

iBankマーケティング株式会社 代表取締役

経営企画部門に在籍し、2007年のふくおかフィナンシャルグループ設立とその後のPMI業務に注力。2015年までの10年間で企業ブランド戦略の立案や、地銀9行による地域再生・活性化ネットワークの構築、地方創生プロジェクトなど様々なパートナーとのアライアンスを推進。2014年より既存の銀行、サービスに捉われない「全く新しいマネーサービス」としての金融サービスプラットフォームの構築に向けたプロジェクトをリードし、iBankマーケティング社を立ち上げる。

若い世代にも響く「ユーザーが求めるサービス」を形にしたい。

iBank社が提供している『Wallet+』とは、福岡銀行など4行の銀行口座を登録して使える預金管理アプリだ。残高照会やデビットカードと連動した家計の収支管理ができる。
また「夢までの距離が見える、お金管理アプリ」というコピーが示すように、目的に向かってお金を管理していく姿を目的預金というサービスを通じてサポートすることを大きな特徴としている。目的別に貯蓄口座へ振り替えることが簡単にできるため、毎日アプリを気軽に使いながら、お金の管理をすることにつながる。

あわせて、ライフイベントに関わる情報コンテンツの配信や、目的預金の内容に応じたクーポン配信を行っているほか、余ったお金を振り替えるだけでなく運用に回す選択肢も実装されており、『iBank』というプラットフォーム全体が、身近にあるお金のことをサポートするマネーサービスとして設計されている。
フィンテック事業に対して後手の対応となっている銀行が多いなか、これらのサービスはどのようにして生まれたのだろうか。

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「銀行がどこも同じような商品・サービスを提供している時代に、地域でのシェア獲得(面的拡大)以外に、どうやってお客さんに支持してもらえるかを考えなければならなかったんです。同時に20代、30代の新しいユーザーの価値観に響くサービスが提供できないと、将来この年代の人たちがそもそも銀行を使ってくれなくなるかもしれないという危機感もありました。」

「そこで経営企画部門の一つのプロジェクトとして数年前から、ユーザーのニーズや課題を起点に50個くらいのサービスを企画したのですが、銀行としてできる/できないという枠も外して絞り込んだ結果生まれたサービスが『Wallet+』です。
従来とは異なるアプローチで企画した若者向けの新しいサービスに対し、一部の役員からは懐疑的な声も聞かれました。それでもユーザーの声を徹底的に追及して、見えてきた可能性。経営陣との討議の結果、やってみようということになりました。銀行法で定められた業務の範囲外である広告やマーケティングなどの事業も含まれていたので、社内ベンチャーとして2016年4月に新会社『iBankマーケティング株式会社』を銀行本体とは別のエンティティとして設立しました。」

銀行といえば、意思決定に時間がかかる、一度決まったことを変えることが難しい、失敗が許されないなど、フィンテック業界とは異質の企業文化があるとも言われる。だが、福岡銀行がiBank社を生み出すことができたのはなぜだろう。また、なぜ永吉さんが社内起業家第1号となったのだろう。

「私は新卒で福岡銀行に入社し、支店業務を一通り経験した後、経営企画部門に10年いました。そこでM&Aからブランディングまで、さまざまな企画業務を経験させてもらいました。そのうちに、行内で誰もしたことのない企画や新規事業の担当を任されることが多くなりました。今回の『iBank』もその一つです。一般的な銀行員に比べると、様々な業務を通じて外部企業との協業を多く経験させてもらいました。銀行はともすれば行内の常識を重視しがちですが、『iBank』の根底にあるユーザー起点でのサービス構築という姿勢は、その中で育まれたのかもしれません。」

銀行グループの一員でありながら、新会社を設立して提供するサービスとして、従来の金融サービスとは一線を画したいという思いも語られた。

「あらゆる銀行がインターネットバンキングを提供し、今もそのシステム維持に巨額の費用を投じていますが、世の中のテクノロジーはあっという間にそのずっと先まで進んでしまいました。一方で、『Wallet+』はiPhoneのようにイノベーティブでユーザーに”刺さる”サービスを金融領域で実現したいという思いで作ったので、インターネットバンキングとはずいぶん異なるものになったのです。今後もユーザーの声に耳を傾け、それをスピーディにアプリに反映させて、より充実したサービスにしていきたいです。」

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地銀だからこその地域事業。フィンテック×マーケティングで地域の事業者を盛り上げる。

個人のユーザー向けに『iBank』が提供するサービスとそれが目指すものは先にふれたとおりだが、対して『iBank』のプラットフォームを共創する法人のパートナー企業(事業者)に提供される価値とはどのようなものだろうか。iBank事業を展開する上での目標を聞いてみた。

「そもそも銀行には、たくさんの個人のお客様とあらゆる業種/業界の企業とのお取引がありますが、その個人と法人を結びつけるビジネスには手付かずでした。この領域では地域に根付いた地銀だからこその強みを活かせるはずなのに、法人と法人をつなぐビジネスマッチングというサービスがあるくらいでした。」

「一方、iBank社では銀行が従来から保有する個人のお客様のデータベースに加え、『Wallet+』上の目的預金や情報コンテンツの閲覧状況などを新たに収集することで、高精度のマーケティングソリューションを提供することができます。これを強みとして、地域の事業者にデジタルマーケティングの機会を提供することで、個人と法人をつなぐエコシステム型のビジネスモデルを構築していくことを目指しています。そのためには非金融領域の事業者とどうつながっていくかが重要になります。
また、これまでの銀行員は取引先で主に金融(財務)の話しかできなかったわけですが、当社がその枠外のサービスも提供できることで、マーケティングの相談もしていただけるようになりました。これにより地域の事業者のビジネスを一緒に盛り上げていくことができます。このように別の面からもサポートできることは、グループ全体で提供する価値を高めることにもつながります。」

『Wallet+』のユーザーは順調に増加しているものの、ときに事業拡大に向けての課題を感じることもあるという。

「そもそもマーケティングのビジネスに参入するのは初めてなので、ノウハウもなく、我々自身が手探りで進んでいる感覚はあります。また、福岡のような都会であっても、デジタルを活用したマーケティングではなくチラシやDMといったいわゆるアナログの広告宣伝が根強く残っていることもあります。また、そもそもデジタル対応の必要性は頭では理解しているものの、一歩目の踏み出し方がわからないという話もよく耳にします。ネイティブアドといった新しいマーケティング手段や発想についての普及度の点では東京との差を感じることもあります。」

どの分野でも耳にする東京一極集中の問題だが、地方発のフィンテック企業として、ポジティブにとらえている面もあるようだ。

「東京以外にフィンテック企業なんてないと思っていたから、地元でやりたい仕事ができるのはうれしい、と面接時に話してくれた方がいます。確かにこの業種は東京に集積している印象がありますが、IT技術には場所など関係ないはずで、これは不思議な話です。また福岡はデザイナーやエンジニアなども多く、こうした人材が集まりやすい場所ともいえます。」

「当社の社員は現在、銀行からの出向者が大半ですが、専門職の方々の採用を強化したいと思っているところです。メディアディレクターやデザイナー、エンジニア、データサイエンティストなど、機動的にビジネスを展開するための人材を、UIJターンの方を含めて積極的に迎えていきたいです。」

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東京とのつながりの点で永吉さんが関わった例は他にもある。自身の企画がきっかけとなり、2017年4月に福岡銀行は「DIAGONAL RUN TOKYO(ダイアゴナル ラン東京)」を東京・八重洲に開設した。九州に限らず、地域と東京を結ぶビジネスが生まれ、そのイノベーションの拠点となるべく、コワーキングスペースやミーティングスペースを備えた施設だ。柔軟な攻めの姿勢はこのようなところにも表れている。

■ DIAGONAL RUN TOKYO 特設サイト

最後に、ご自身とiBank事業のこれからについて伺った。

「銀行に入社しながら、従来の銀行業務から離れたマーケティング分野の業務をすることになって、私自身はより面白みを感じています。今後もiBank事業を通じて、法人のお客様に対しては多様なサポートを提供したいですし、個人のお客様にとっては金融リテラシーの向上に寄与するようなサービスを提供したいと考えています。昨年の改正銀行法の成立によって、銀行によるオープンAPIの構築が進み、更に開かれた世界が訪れるでしょうから、連携先銀行の拡充などサービスの輪の広がりも今後は追求していきたいですね。」

取材:編集部・前川英麿(プロトスター社CEO)
撮影:編集部(梶井夏葉)
文:芝佑樹
写真提供:iBankマーケティング

●iBankマーケティング株式会社

2016年4月設立。スマートフォン専用のお金管理アプリ『Wallet+(ウォレットプラス)』を中心とした金融サービスプラットフォーム『iBank』を運営。
サービスコンセプトは「いつも私を『i』してくれる、新しいマネーサービス。」
>コーポレートサイト

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